GAFAとは、Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字をつなげたもの。
「the four GAFA 四騎士が創り変えた世界」では、この4社が過去20年間、そして今後も、消費社会を作り変えていることを、豊富なデータを元に描き出しています。
著者は、ニューヨーク大学スターン経営大学院教授で、起業家としていくつもの会社を起こした経験のある人物。
翻訳は、渡会佳子さんという方で、原文のニュアンスをとてもうまく伝えてくれています。
翻訳者の読みにくさ、理解のしにくさは、まったく感じませんでした。
Amazon売り上げランキング13位というのも、日本語の読みやすさによる力が大きいのではないでしょうか。
小売業は成長するようにできている
消費は本能であり、現代は消費社会です。
そのため、小売業は成長するようにできており、世界の長者番付の上位には、小売業を創業者や経営者が顔を並べます。
フォーブス世界長者番付2018では、1位にAmazonのジェフ・ベゾス、4位にLVMHグループのベルナール・アルノー、6位にはZARAのアマンシオ・オルテガが入っています。
同じくフォーブス世界長者番付2018にランクインした日本人は、55位にユニクロの柳井正、334位に楽天の三木谷浩史、480位にニトリの似鳥昭雄、572位にセブン&アイ・ホールディングスの伊藤雅俊といった、小売業の方々が多数入っています。
2018年フォーブス世界長者番付
世界一のお金持ち、ジェフ・ベゾス率いるAmazonは、「利益は小さく、成長は大きく」という方針のもと、投資家には配当金を払わず、集めた資金を多方面に投資しています。
まず、倉庫。
空港の近くや富裕層の住宅地に近い場所に、ロボットが仕分する倉庫を積極的に建設。
そして、運輸業としての能力を高め、陸・海・空のロジスティクスネットワークを構築しています。
さらに、Amazonブランドの店舗を充実させ、頭打ちのeコマース事業を実店舗とマルチチャネル化することで、顧客体験をさらに良くしようともくろんでいます。
そんなAmazonは、商品検索ではGoogleを抜いており、小売業とその周辺の業界を飲み込むような勢いがあるのです。
著者は、最も早く、1兆ドル企業になるだろうと予測しています。
高級ブランドになったApple
そして、Appleは、4社のなかで、もっとも長生きできる企業になったと評します。
その理由は、Appleがアップルストアを作ったことで、世界の高級ブランドの仲間入りをしたから。
IT企業の寿命は、ドッグイヤーと言われるくらいに短いのですが、高級ブランドはどれも長寿です。
しかも、世の中の高級ブランドとAppleが違うのは、「製品の価格は高く、生産コストは低く」が実現できていることです。
一般に、高級ブランドは、それなりのコストが発生しているため、利益率を高く設定することはできませんが、AppleのiPhoneではそれができています。
世界的なサプライチェーンを構築し、すばらしい製品を安く製造することができるためです。
そして、高価なスマホを購入する富裕層は均質であり、その均質さがあるからこそ、高級ブランドは国境を超えやすいと分析します。
たしかにiPhoneは安くありません。
他者がマネできないことを実行することが、長期的な成功へと導くのです。
Appleの場合には、それがアップルストア。
世界中のアップルストアには、毎日100万人がやってくるそうです。
規模もターゲティングも獲得したメディア
Facebookは、20億人がつながるSNSです。
著者のリサーチによると、人は毎日35分Facebookをみて、15分はインスタグラムを見ているそうです。
著者は、従来のマーケティングでは、規模を取るか(テレビとか)、それともターゲティングを取るか、の2択でしたが、Facebookは規模もおさえながら、ターゲティングもできる広告メディアに成長していると指摘します。
Facebookは、個人情報にもとづいてデータ分析をしており、本人よりも本人を詳しく知っているというのです。
しかも、スマホにインストールしたFacebookアプリは、電話の内容も記録しているのだそうです(2017年の執筆時点)。
音声から、電話で話している内容を抽出して記録できるというのです。
こわいわ~。
さらに怖いのは、きちんとしたニュースのとなりにフェイクニュースがあると、フェイクニュースの信頼性も上がること。
しかし、Facebookを使わない人は少数派です。
企業価値を上げる企業とは、ユーザーにとって便利で利益になるように、情報収集アルゴリズムを活用している企業なのだそうです
つまり、自分で自分の個人情報を投稿したくなるように仕向け、そこに書かれた情報や友人関係、「いいね」した投稿、どんなふうにネット上で動いているか、などから分析し、わたしたちが欲しいと思っている情報を与えてくれるようになっている仕組みをもっている企業は、価値が高まるのです。
Amazonも、ユーザーレビューとレコメンドで顧客の満足度を上げていますが、Facebookは広告面でGoogleのライバルとなるくらいに、わたしたちのことを理解しているのです。
知識を支配する神
わたしはときどき、Google先生と言ったり、書いたりすることがあります。
これは、日本に限ったことではなく、世界中でGoogleは全知全能の神のように思われているようです。
「世界のすべての情報を整理する」とは、Googleが創業以来、一貫して掲げているビジョンですが、そのおかげで、わたしたちはGoogleに毎日たくさんの質問をし、最適と思われる回答を得ています。
もはや脳のかわり、と言ってもいいくらいです。
Googleは、登場以来、インターネットの世界を変え、広告の世界を変え、わたしたちの生活も変えてきました。
それはまるで神のようだ、というのです。
支配者と農奴しかいない勝者総取り経済
しかし、GAFAの世界は、勝者総取りの経済です。
これは、グレートデカップリングという言葉でも表されるので、聞いたことがある方もいらっしゃることでしょう。
グレートデカップリングとは、生産性は伸び続けているにもかかわらず、雇用が減っている状態を指します。
【新井 紀子】「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」でも、同様の指摘がなされていますが、AIが普及すると、ごく一部の支配者(経営者とか)と、人間しかできない作業(接客とか)とに分けられます。
事務職を中心とする中産階級が世界的に減少することから、高給をとり、世界的な長者番付にのるような支配者と、その支配者が提供するアプリの管理のもとにはたらく、低所得層の農奴しかいなくなるというのです。
同様の指摘は、ここ数年の間に話題になった本には、必ずと言っていいほど、書いてあります。
人間は仕事をロボットに奪われているのです。
これが、21世紀がはじまる直前から、起こっている事実です。
では、GAFA以降の世界で生きるためには、何をすればよいのでしょうか?
個人が成功するために必要な心理的成熟
精神的、心理的な成熟が、もっとも必要な要素だというのは、なんとなくわかりますね。
自己管理することができて、モチベーション、共感力、そして社交スキルの高い人ほど、成功しやすいのです。
怒りっぽくて、いつもイライラしていて、人の話を聞かない人物には魅力を感じませんから。
この点においては、女性のほうが優れているので、今後は女性がもっと活躍するだろうと、著者は指摘しています。
次に大切なことは好奇心。
そして、当事者意識です。
他人事のように振る舞うのではなく、つねに自分だったらどうする、自分だったらどう考えるかを問い続ける姿勢が必要です。
そして、もっとも大切なことは、その国で最大の都市に、できるだけ早い段階で住むこと。
これは、日本の大学教育政策を真っ向から否定しています。
日本では、東京をはじめとする都市部の大学は、入学者数に制限が加えられるみたいですから。
都市には、富、情報、権力、チャンスが集中しています。
ネット社会になって地方でも生活できるとはいいますが、成功したいなら都市に出る、そして世界的に成功したいなら、ニューヨークやロンドンのようなスーパーシティに出ていくことが大切なのだそうです。
わたしも同意見です。
田舎に住んでいたら、ほんとうに必要な情報は入ってきません。
ネットで流れているのは古い情報で、本当にビジネスに必要な情報は、フェイストゥフェイス、つまり対面の会話のなかにあるからです。
ほかにも、示唆に富んだ指摘が、本書の中にはたくさんあります。
GAFAのつぎにくる企業は?という分析も。
そして、とてもおもしろく読めます。
おすすめです。
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