仮想通貨といえばビットコインが有名ですが、詳しく知る人はほとんどいないと思います。
そのビットコインについてその歴史をひもとき、フィンテックと呼ばれる金融とITの将来までを網羅したのが本書です。
著者は日経新聞のシニア・エディター。経営論を専門とする方です。
むずかしいこともわかりやすく説明されていて、経済学やITの知識がなくても理解ができます。
ビットコインとは?
日本で、今年4月に世界に先駆けて「仮想通貨法(改正資金決済法)」が施行されました。ご存知でしたか?
ビットコインは、インターネット上で流通する通貨として、国をまたいだ送金・決済手段として注目を集めています。その理由は手数料が安いから。
一度でも国をまたいだ送金を経験したことがある人ならご存知だと思いますが、手数料が高いことが知られています。送金金額にもよりますが、2000円から5000円程度がかかります。
しかも、手数料が最期まで確定しないので、送金が完了するまで手数料の総額がわからないのです。
今から7年ほど前になりますが、中国に送金した時のこと。
必要な金額に手数料を加えて送金しました。もちろん送金手数料は送り手であるこちらが負担しています。
国際送金では、手数料を誰が負担するのかを選択できます。
当然のことながら、まさか送金手数料が、必要とする金額から差し引かれるとは思ってもいませんでした。
が、しかし、60元ほどでしたが、中国内の銀行間の移動で、手数料が差し引かれてしまったことがあります。60元でも足りないものは足りないので、さらに追加で送金しました。
こんなことは、国際送金では日常茶飯事だと思います。
セブン銀行が、送金手数料を安くして、日本に住む外国人が家族への送金しやすくすることで口座数を拡大したように、銀行手数料に頭を悩ませる人は多いのです。
そこでビットコインです。
ビットコインは、ネット上で流通する通貨として、2009年に誕生しました。
その後、投資的な価値が知られるとともに、国際送金手数料が安いことから、利用が進んできています。
最近では、青森県弘前市が「弘前城公園の修復や維持管理費をビットコインで寄付募集」というニュースが流れました。
ビットコインの特徴を、「仮想通貨とブロックチェーン」では次のようにまとめています。
- 国家や中央銀行が発行しない。
- 電子マネーと異なり、預金や現金などの裏付けがない。
- 金のように供給量に上限があり、希少価値から売買に応じて価格がつけられる。
- 世界中の30以上の通貨と交換できる。
- 銀行を介さずに国際送金ができコストも格安。
- 金融とITが融合する「フィンテック」の筆頭格として1000億円以上の投資が行われている。
- 預金と違い、銀行封鎖でお金が引き出せなくなる事態を回避できる。
- 現金のように匿名で取引ができる
- 秘密鍵と呼ばれるパスワードをなくすと、永久に使えなくなる(第三者にコインが送れなくなる)
そして、ブロックチェーンと呼ばれる分散台帳の仕組みを使っているために改ざんができない仕組みであること。
こんなビットコインは、サトシ・ナカモトと名乗る人物が創造した仮想通貨です。
サトシ・ナカモトとは誰?
本書では、ビットコインの生みの親、サトシ・ナカモトの思想についても知ることができます。
本文のあちこちに散見される、サトシに関する記述をまとめると、草の根BBS時代によく言われていたような、国境など関係ない自由と、最後は多数決で決める直接民主主義の思想の影響を受けているようです。
- より公平な仕組みを求めるリバタリアン(完全自由主義、自由至上主義、自由意志主義などを標榜する人のこと)
- 金本位制回帰論者
- 国家の金融政策によって債務者が得をすることを嫌う
- 銀行や銀行家が裕福になることを嫌っていた
などなど。
2008年に起こったリーマン・ショックによる世界経済の危機のすぐあとに、サトシ・ナカモトは「Bitcoin:A Peer-to-Peer Electronic Cash System」というA4でわずか9ページの論文を暗号の専門家のメーリングリストに投稿しました。
リーマン・ショックは、リーマン・ブラザーズが倒産したことで経済的な打撃が世界中に波及したことが知られています。
このとき、各国の政府は、銀行を救済するために様々な政策を打ち出しました。
このような恣意的な経済政策から刺激を受けたかのようなタイミングで、ビットコインのホワイトペーパーは発表されました。
その後、サトシはひとりでビットコインを掘り出し、2009年1月4日にサトシからサトシへとビットコインを送金します。
これが仮想通貨としてのはじまりです。
サトシは、最初の6日間で43000BTCを掘り出します。
ビットコインの総量は最初から決められていて、2140年末に2100万個で打ち止めとなります。
この有限性から、金と同じように考えられています。
その後サトシは、仲間を得ながら、ビットコインを掘り出していきますが、2010年12月に「わたしには別にやることがある」という言葉を残して姿を消してしまいます。
その後の調査によると、サトシはビットコイン総量の5%を保有しており、一度も使わないままになっているというのです。
5人の仲間にソースコードの管理を任せて、姿を消したサトシのその後は誰も知りません。
ビットコインの創造者は、2016年のノーベル経済学賞にノミネートされ、身元不明のまま伝説上の人物になったのです。
P2Pで管理するブロックチェーン
ビットコインの取引は、Peer to Peer(P2P)でつながった個人がやり取りします。
WinnyやNapsterといったファイル共有ソフトを知っている方もいると思いますが、同じ原理です。
中央集権的な管理システムではない、オープンな分散型のネットワークです。
インターネットのはじまりといわれるARPANETもP2Pでした。
取引情報は10分ごとにひとつのブロックにまとめられ、ひとつのブロックにはランダムに取捨選択された取引情報がまとまって入っています。
これらの取引を「正しい」と証明する人のことをマイナー(掘る人)と呼びます。マイナーにはビットコインが与えられるため、これをマイン(掘る)と言い始めたようです。
マイナーは誰もが参加できますが、誰よりも早くブロックに隠されたハッシュ値を求めなければなりません。そのためには強力な演算能力が必要とされるため、今では大規模な投資を行ってマイナーになる企業が複数存在します。
サトシは「1CPU1票」と言っていたようですが・・・。
ブロックがどんどんつながっていく公開台帳の仕組みは、管理コストが低くなることから、現在では各方面で利用が検討されています。
たとえば土地台帳の管理。
政府や自治体が行っている管理業務は、ブロックチェーンに置き換えることで改ざんができないデータとして保存することができるため、中央集権型のデータ管理システムに代わっていく可能性があります。
最近、北朝鮮のサイバー部隊が、各国の銀行を狙って攻撃し、預金を奪い取っているというニュースもありました。この資金で核開発を行っているといわれています。
サイバー攻撃を受けにくく、データの改ざんがしにくいブロックチェーンの仕組みが、数年後には現実のものになっているかもしれません。
仮想通貨の未来
「仮想通貨とブロックチェーン」では、仮想通貨がもたらす影響を、多方面にわたって取材しています。
ビットコインが中国マネーによって高騰しているという現象面はもちろんですが、将来、仮想通貨が中央銀行から発行されたときにどうなるのか、民間銀行から発行されたらどうなるのか、完全にオープンなビットコインとどう違うのか、といった疑問に答えてくれます。
金のように有限の資産だからビットコインに投資しよう!
という誘い文句がならぶ本もありますが、実際のところ、ビットコインの行く末がバラ色かどうかはわかりません。
ネット技術は、初期のものを短期間に凌駕し、大きく飛躍することが多々あります。
ビットコインは最初の一歩に過ぎない、と著者は注意深く書いています。
しかし仮想通貨は広がりを見せるだろうし、バックオフィス機能をブロックチェーンの仕組みへ乗り換えるといったことは確実に起こってきます。
「仮想通貨とブロックチェーン」には、いま知らなければならないことが網羅されています。フィンテックに興味がない人でも、近い将来、手持ちの通貨が変わるかもしれないことに興味がない人はいないでしょう。
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