シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧 (文春新書) | ||||
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1月に出版され、2月に購入した「シャルリとは誰か? 人種差別と没落する西欧」をやっと読了。
こんなに時間がかかったのは、筆者が歴史人口学者・家族人類学者という専門家で、フランスの歴史と宗教、そして政党活動などを知らないと、読み進めるのがかなり苦痛で困難、という代物だったからです。
本当にてこずった本書は、では全く面白くないのか?と問われれば、かなり面白い、と答えたくなります。
本書は、パリで襲撃を受けた「シャルリ・エブド」紙と、そのために反イスラムでデモ行進をした事実について解説したものです。
フランスで起こっている反イスラム、イスラム恐怖症が、カトリックで中産階級の高齢者によって支持されている、ということを丁寧に分析し解説したもので、ヨーロッパの未来については、最近読了したイアン・ブレマーや副島 隆彦らと、同じような文脈を語っています。
論文なので、部分を切り取って紹介するのはよくないとは思いますが、いくつか紹介します。
太字は私がつけています。
フランスはまた、国家が、実にさまざまな営みやプログラムをとおして、すでに恵まれている階層を優遇する国でもある。アメリカでもイギリスでも、中等・高等教育のコストが親にとって高く、それが中産階級における出生率の低さを説明する要素になっている。(中略)フランスでは、状況は正反対だ。中等・高等教育のコストの大部分を国家が負担してくれるから、「管理職および知的上級職」が将来における自分たちの社会的自殺を覚悟することなしに子作りができるわけで、その階層の人口学的な堅調さはそのように説明できる。(中略)支配的な言説は何かにつけて毎度毎度、中産階級を税金の犠牲者のように提示する。だが、この犠牲者イメージが物語っているのは、フランスにおいては、中産階級がイデオロギー的権力を握っているということにほかならない。
毎年毎年、OECDが、フランスについて、他の先進国で観察されていることと異なり、少なくとも所得ピラミッドの下位80%とその上の19%(つまり富裕層をのぞく全体の99%)の間では、格差が拡大していないことを確認している。(中略)ほかでもないフランスからトマ・ピケティという、地球全体で最富裕の1%に的を絞った世界的経済学者が出たのは、果たして偶然だろうか。憎むべき対象であるどころか、フランスの中産階級は今もなお、現実に平等主義的で進歩主義的な社会の建設に取りかかることを可能にするための土台を構成している。
すべての先進国社会に共通する特徴の一つは、若者たちが経済的および社会的に圧しつぶされていることだ。グローバリゼーションが、そして何より自由貿易が役割を果たしているわけである。
この世界の中では、若者たちが雇用を見つけるにも先立って、引退してからのことを心配するように促されている。最先進国の社会は、老化のためにプログラムされた若者たちをつくり出している。そんな若者たちはできるだけ早く家やマンションを買おうとし、そのようにして価格を押し上げ、自らの居住面積の減少に貢献してしまう。
すべての宗教に関して言えることだが、特定の宗教があらゆる時代、あらゆる状況で進歩に対立すると主張することなど、何によっても正当化されない。それどころか、プロテスタンティズムとユダヤ教という、聖書に基づいていて、非常に文化水準の高い諸民族を輩出したこの二つの宗教が示すのは、社会の発展の中で、信仰のほうが教育の大衆化に先立つということだ。(中略)中等教育の生徒たちの学力を図るPISAタイプの調査で、フィンランドはトップグループの常連だが、フィンランド人はあのパフォーマンスの多くをルターに負っているのであり、政府に追っている部分は少なく、先進的資本主義には何ひとつ負っていない。(中略)フランスでは歴史がそれとは非常に異なっていて、カトリック教会が時代遅れで、後ろ向きで、識字化にブレーキをかけたのだった。
日本人にはカトリックとプロテスタントの違いはもちろんのこと、それぞれに存在する宗派の考え方などをすべて理解することは難しいですが、フランスおよびヨーロッパが抱える諸問題を、宗教的、人口学的に検証している本書は、分析手法をふくめ、日本にとっても参考になるものと思います。
ちなみに、著者のエマニュエル・トッドは、EUについても、ユーロについても、すでに終わっている仕組みと断じています。
今日明日にも、イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果が出ますが、本書を読むかぎり、イギリスがEUを離脱したら、ほかにも離脱する国家が現れ、EUの実態がともなわなくなる可能性があるとしか思えません。
世界の不確実性は、いっそう高まっている、ということではないでしょうか。
【6月24日追記】
イギリスのEU離脱が決まりました。
円が99円まで上昇し、株価は下落しました。
追随する国も増えそうです。
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